博士課程2年・大石若菜さんの論文が出版されました。概要は以下の通りです。
Inactivation kinetics modeling of Escherichia coli in concentrated urine for implementing predictive environmental microbiology in sanitation safety planning
(衛生安全計画における予測環境微生物学の適用のための濃縮尿中大腸菌不活化モデルの構築)
Wakana Oishi, Ikuo Kato, Nowaki Hijikata, Ken Ushijima, Ryusei Ito, Naoyuki Funamizu, Osamu Nishimura, Daisuke Sano
Journal of Environmental Management, August 2020, 268, 110672.
【背景】し尿からの資源回収および農地還元はサニテーションの普及のみならず、持続的な農地利用、食糧生産、水資源の保全等に寄与することで、持続的な社会の発展に包括的に貢献します。特に尿中にはリン、窒素、カリウムが豊富に含まれ、し尿分離型トイレで糞便と分けて回収されます。各家庭と肥料を使う農地は近接しているとは限らないので、尿は各家庭から回収して肥料製造工場または農地へ運搬されますが、尿はその容積のほとんどが水であるため肥料成分当たりの輸送コストが高く、化成肥料と比べ割高になってしまいます。尿からの資源回収システムを成立させるためには、回収前に尿の濃縮(減容)が不可欠です。一方でし尿分離型トイレから回収された尿中には病原微生物が存在します。回収作業者が尿に接触することに伴う感染リスクが問題となるため、濃縮尿の回収前には不活化処理が必要です。
【成果】本研究は、運搬コスト削減のための「濃縮」の衛生学的側面に着目することで、不活化のための消毒剤や外部電力を用いることなく、濃縮尿の回収は衛生学的に安全に実施可能であることを示しました。危害分析-重要管理点(HACCP)による濃縮尿の衛生学的安全管理に必須である濃縮尿中病原微生物不活化モデルを新たに構築し、安全管理基準を定量的微生物リスク評価により推定したところ、加水分解された尿は濃縮することでWHOが推奨する 6か月以上の貯蔵期間を大幅に短縮可能できることが示されました。また、塩類等の濃縮による浸透圧上昇が大腸菌の不活化を促進したことから、浸透圧が重要管理点で監視すべき安全管理基準となることが示唆されました。本研究はHACCPの予測微生物学的アプローチをし尿の衛生安全管理に拡張することで、重要管理点の監視による回収作業者の感染リスク管理を可能にしました。この成果は、これまで安全性の理由により困難であった肥料原料としてのし尿の定期的な回収に合理性を与え、積極的な資源回収を可能にするものです。