薬剤耐性細菌と水環境

研究背景

抗菌薬への耐性を有する「薬剤耐性菌」に関する問題が世界の注目を集めています。近年は新規の抗菌薬等の開発が停滞していることから、薬剤耐性菌の存在は、感染症に対する有効な治療法を確立してきた人類の努力を無に帰するリスクを孕むものとして危惧されています。国際化が著しく進展した現代では、世界のどこかで出現した薬剤耐性菌がヒトやモノを介して拡大し、被害が世界中に拡大する恐れがあります。

以上の認識のもと、2015年5月のWHO総会において「薬剤耐性に関する国際行動計画」が採択されました。2015年6月のエルマウ・サミットでは、WHOの国際行動計画の策定を歓迎するとともに、ヒトと動物等の保健衛生の一体的な推進(ワンヘルス・アプローチ)の強化と新薬等の研究開発に取り組むことが確認されています。直近では、2016年9月の国連総会で薬剤耐性に関するハイレベル会合が開催された他、2017年5月にベルリンで行われたG20保健大臣会合において、協力して取り組むべきテーマの1つとして薬剤耐性が取り上げられました。

薬剤耐性に関する国際的な認識が高まる中で、我が国の対応も進んでいます。2016年4月には、関係省庁・関係機関等がワンヘルス・アプローチの視野に立ち、協働して集中的に取り組むべき対策が「薬剤耐性対策アクションプラン2016-2020」としてまとめられました。2017年2月には薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会が設置され、我が国におけるヒト、動物、農業、食品、及び環境の各分野における薬剤耐性菌及び抗微生物薬使用量の現状及び動向を把握することを目的とした「薬剤耐性ワンヘルス動向調査」が行われ、10月18日に「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2017(以下薬剤耐性ワンヘルス報告書)」が公開されるに至っています。この薬剤耐性ワンヘルス報告書は、薬剤耐性に関わる国内の現状を網羅的にまとめた画期的な報告書ですが、その結語では「環境や食品等の分野における包括的な動向調査」及び「バイアスの影響を考慮した分析や精度保証、動向調査間の比較方法に関する検討」の必要性が指摘されています。特に薬剤耐性因子による水環境汚染に関しては、我が国において系統立てて整理されている状況にないことから、早急に体制を整え実態把握を進める必要があるのです。

本研究の目的

以上に示した視点の下、本研究では、薬剤耐性因子による水環境汚染の実態を把握することを目的とし,以下の研究を進めています。

1)水環境中における薬剤耐性遺伝子伝播に関する研究
2)下水処理過程における薬剤耐性細菌の挙動に関する研究

本研究の成果

本研究の成果に関する論文は以下の通りです。

  1. Understanding human health risks caused by antibiotic resistant bacteria (ARB) and antibiotic resistance genes (ARG) in water environments: Current knowledge and questions to be answered
    Mohan Amarasiri, Daisuke Sano, Satoru Suzuki
    Critical Reviews in Environmental Science and Technology, 2020, 50(19), 2016-2059.
  2. Updated research agenda for water, sanitation and antimicrobial resistance
    Daisuke Sano, Astrid Louse Wester, Heike Schmitt, Mohan Amarasiri, Amy Kirby, Kate Medlicott, Ana Maria de Roda Husman
    Journal of Water and Health, 2020, 18(6), 858-868.