門屋 俊祐 日本学術振興会特別研究員(DC2)

  • 修了後の所属先:東京大学大学院工学系研究科(日本学術振興会特別研究員(PD)、2021年4月)
  • 出身高校:札幌市立開成高等学校(北海道)

研究テーマ

  1. ロタウイルスの塩素消毒感受性に関する研究
  2. 小規模水処理施設の利用における病原細菌感染リスク評価
  3. ベイズ統計及び機械学習アルゴリズムを用いた水系感染症ウイルス予測不活化モデリング
  4. 感染症モデリングによる水処理介入効果の推定

研究内容

1.ロタウイルスの塩素消毒感受性に関する研究

乳幼児下痢症を引き起こすロタウイルス感染症は世界中で報告されています。高度な医学的知識及び衛生設備を備えた先進国も例外ではありません。上下水道の普及した先進国では患者糞便と共にロタウイルスは下水処理場へ集積され、そこでは消毒処理による不活化が行われるため、環境水中に放流される感染性ロタウイルス濃度は低減されます。しかしながら、高い進化速度を示すロタウイルスは消毒剤、特に接触する機会の多い(ドアノブなどの環境表面、生鮮野菜など)遊離塩素に適応する可能性が考えられます。本研究は、ロタウイルスが遊離塩素消毒に適応する可能性を検証すると共に、その要因を進化学的観点から究明することを目的としています。

2.小規模水処理施設の利用における病原細菌感染リスク評価

先進国では人口減少が進行しており、地方の人口減少地域の集中型水供給システムの維持管理が困難になっています。各戸導入型小型水供給設備は人口減少地域における持続的な水供給システムとなり得ますが、原水水質は必ずしも生活用水としての活用に適しているとは言えず、設備利用者の健康を保証できるような管理を行う必要があります。そこで本研究では、病原微生物及び消毒副生成物による健康リスクを推定し、許容リスク以下になるような設備の管理体制の提案を試みています。

3.ベイズ統計及び機械学習アルゴリズムを用いた水系感染症ウイルス予測不活化モデリング

下水の再利用は世界中で問題となっている水不足を解消する一つの手立てとして注目されています。下水中には水系感染症ウイルスなどの有害物質が含まれているため、消毒等の水処理を適切に行うことで、下水再生水の曝露時における健康リスクを許容値以下に維持する必要があります。消毒は水系感染症ウイルスの不活化に効果的であり、対数除去効率を決める消毒強度のリアルタイムモニタリング及び記録により、下水処理水中のウイルス濃度を一定値以下に保つことが可能となります。しかしながら、下水処理場毎に流入する下水水質は異なるために消毒剤濃度が変化し、ウイルスの対数除去効率は一意的に決定することができません。そこで本研究では、階層ベイズモデルや機械学習アルゴリズムを用いて、対数除去効率を目的変数、pHや水温などの水質を説明変数とした予測不活化モデルの構築を試みています。

4.感染症モデリングによる水処理介入効果の推定

ノロウイルスやロタウイルス、SARSコロナウイルス-2などのRNAウイルスは、人類に莫大な疾病負荷をもたらし続けています。これらのウイルスの感染拡大を抑制するために、ワクチンの開発や導入、消毒などの介入対策が実施されています。介入対策の感染者数の低減効果を推定するために、常微分方程式を用いた感染症モデリングが広く行われているものの、主にワクチン効果の推定に主眼が置かれており、水系感染症ウイルスに有効な消毒処理等の水処理介入効果は全く研究されていないのが現状です。また、これまでの感染症モデルはウイルスの集団構造変化あるいは進化による感染力等の変動を考慮していません。本研究では、ウイルス進化をも考慮した全く新たな感染症モデルを構築し、水処理介入効果の推定手法の開発を目指しています。

 略歴

2016年3月 北海道大学工学部環境社会工学科衛生環境工学コース 卒業
2018年3月 北海道大学大学院工学院環境創生工学専攻 修了

 受賞歴

2017年8月 日本微生物生態学会環境ウイルス部会集会・最優秀発表賞
2016年3月 公益財団法人クラーク記念財団・クラーク賞

学術論文

  1. Predictive water virology using regularized regression analyses for projecting virus inactivation efficiency in ozone disinfection
    Syun-suke Kadoya, Osamu Nishimura, Hiroyuki Kato, Daisuke Sano
    Water Research X, May 2021, 11, 100093.
  2. Hierarchical Bayesian modeling for predictive environmental microbiology toward a safe use of human excreta: Systematic review and meta-analysis
    Wakana Oishi, Syun-suke Kadoya, Osamu Nishimura, Joan B. Rose, Daisuke Sano
    Journal of Environmental Management, April 2021, 284, 112088.
  3. Regularized regression analysis for the prediction of virus inactivation efficiency by chloramine disinfection
    Syun-suke Kadoya, Osamu Nishimura, Hiroyuki Kato, Daisuke Sano
    Environmental Science: Water Research & Technology, 2020, 6, 3341-3350.
  4. Bottleneck size-dependent changes in the genetic diversity and specific growth rate of a rotavirus A strain
    Syun-suke Kadoya, Syun-ichi Urayama, Takuro Nunoura, Masaaki Kitajima, Toyoko Nakagomi, Osamu Nakagomi, Satoshi Okabe, Osamu Nishimura, Daisuke Sano
    Journal of Virology, May 2020, 94(10), e02083-19.
  5. 各戸導入型小型水供給設備の利用における水安全計画的アプローチによる健康リスク管理
    門屋俊祐、牛島健、伊藤竜生、長谷川祥樹、三浦尚之、秋葉道宏、西村修、佐野大輔
    土木学会論文集, December 2019, 75(7), III_403-III_412.
  6. Syun-suke Kadoya, Osamu Nishimura, Hiroyuki Kato, Daisuke Sano
    Water, October 2019, 11(10), 2187.
  7. Sign-constrained linear regression for prediction of microbe concentration based on water quality datasets
    Tsuyoshi Kato, Ayano Kobayashi, Wakana Oishi, Syun-suke Kadoya, Satoshi Okabe, Naoya Ohta, Mohan Amarasiri, Daisuke Sano
    Journal of Water and Health, June 2019, 17(3), 404-415.
  8. Assays for specific growth rate and cell-binding ability of rotavirus
    Syun-suke Kadoya, Daisuke Sano
    Journal of Visualized Experiments, January 2019, 143, e58821.
  9. Selection of cellular genetic markers for the detection of infectious poliovirus
    Daisuke Sano, Megumi Tazawa, Manami Inaba, Syunsuke Kadoya, Ryosuke Watanabe, Takayuki Miura, Masaaki Kitajima, Satoshi Okabe
    Journal of Applied Microbiology, April 2018, 124(4), 1001–1007.
  10. Sapovirus in wastewater treatment plants in Tunisia: Prevalence, removal, and genetic characterization
    Miguel Varela, Imen Ouardani, Tsuyoshi Kato, Syunsuke Kadoya, Mahjoub Aouni, Daisuke Sano, Jesús Romalde
    Applied and Environmental Microbiology, March 2018, 84(6), e02093-17.
  11. Identification of the inactivating factors and mechanisms exerted on MS2 coliphage in concentrated synthetic urine
    Wakana Oishi, Daisuke Sano, Loic Decrey, Syunsuke Kadoya, Tamar Kohn, Naoyuki Funamizu
    Science of the Total Environment, November 2017, 598, 213-219.

総説・解説等

  1. ノロウイルスの新知見
    門屋俊祐, 伊藤寿宏, 佐野大輔
    膜協会ジャーナル, 2016, 23(1), 7-15

学会発表

  1. ネットワークSIRモデルを用いたSARS-CoV-2伝播モデルの構築
    木村幸輝、門屋俊祐、佐野大輔
    第55回日本水環境学会年会(2021年3月10-12日、オンライン開催
  2. 下水処理水質の衛生工学的管理のための水中ウイルス消毒モデルの構築に関する研究
    石井敦大、門屋俊祐、佐野大輔
    第55回日本水環境学会年会(2021年3月10-12日、オンライン開催
  3. 浄水障害を引き起こす藻類の水源域における異常発生予測モデルの開発
    八島将太、門屋俊祐、西村修、今本博臣、三浦尚之、秋葉道宏、佐野大輔
    第55回日本水環境学会年会(2021年3月10-12日、オンライン開催)
  4. 次世代シーケンス解析による水道原水中ロタウイルスの遺伝的多様性評価
    三浦尚之、門屋俊祐、瀧野博之、佐野大輔、秋葉道宏
    第55回日本水環境学会年会(2021年3月10-12日、オンライン開催)
  5. 水系感染症ウイルスの集団内遺伝的多様性がもたらす塩素感受性変化
    門屋俊祐、浦山俊一、布浦拓郎、中込治、中込とよ子、北島正章、岡部聡、西村修、佐野大輔
    第23回日本水環境学会シンポジウム(2020年9月9-10日、オンライン開催)
  6. スパース変数選択による水中胃腸炎ウイルスのオゾン不活化モデルの構築
    門屋俊祐、西村修、加藤裕之、佐野大輔
    第57回下水道研究発表会(誌上発表)
  7. Genetic diversity and free chlorine susceptibility of a rotavirus A strain
    Syn-suke Kadoya
    Interdisciplinary seminar on mucosal immunology at Tohoku University 2020
    Feb. 19, 2020, Espace, Tohoku University Katahira Campus, Sendai, Japan
  8. Predictive Water Virology: Hierarchical Bayesian Modelling for Estimating Virus Inactivation Efficiency (poster presentation)
    Daisuke Sano, Syun‐suke Kadoya
    20th IWA Symposium on Health Related Water Microbiology
    Sep 15-20, 2019, Vienna, Austria
  9. Free chlorine Sensitivity of Rotavirus Exposed to Repeated Disinfection and Bottleneck Events
    Syun‐suke Kadoya, Syun‐ichi Urayama, Takuro Nunoura, Masaaki Kitajima, Toyoko Nakagomi, Osamu Nakagomi, Satoshi Okabe, Osamu Nishimura, Daisuke Sano
    20th IWA Symposium on Health Related Water Microbiology
    Sep 15-20, 2019, Vienna, Austria
  10. 遊離・結合塩素による下水処理水中病原ウイルス消毒モデルの構築
    門屋俊祐、西村修、加藤裕之、佐野大輔
    第56回下水道研究発表会
    2019年8月6-8日、パシフィコ横浜会議センター(神奈川県横浜市)
  11. ウイルスの集団構造的ゆらぎを組み込んだ疫学モデルの構築
    門屋俊祐、西村修、佐野大輔
    第6回環境水質工学シンポジウム
    2019年6月22日、岩手大学(岩手県盛岡市)
  12. 定量的微生物リスク評価手法による小規模水処理設備における膜破損モニタリング最適頻度の決定
    門屋俊祐、西村修、三浦尚之、秋葉道宏、佐野大輔
    第55回環境工学研究フォーラム
    2018年12月17-19日、京都大学吉田キャンパス(京都府京都市)
  13. 各戸導入型小規模水処理設備の利用におけるLegionella pneumophila 感染リスク評価
    門屋俊介、西村修、佐野大輔
    日本水道協会・平成30年度全国会議(第93回総会・水道研究発表会)
    2018年10月24-26日、福岡サンパレスホテル&ホール(福岡県福岡市)
  14. Neutral Evolutionary Rate of Rhesus Rotavirus
    Syun-suke Kadoya, Syun-ichi Urayama, Takuro Nunoura, Masaaki Kitajima, Satoshi Okabe, Toyoko Nakagomi, Osamu Nakagomi, Daisuke Sano
    13th International dsRNA Virus Symposium
    Sep. 24-28, 2018, Houffalize, Belgium
  15. ウイルス進化速度を考慮した水消毒技術の提案
    門屋俊祐、佐野大輔
    第5回環境水質工学シンポジウム
    2018年6月23日、あいぽーと佐渡・多目的ホール(新潟県佐渡市)
  16. 遊離塩素への繰返し曝露条件下におけるロタウイルス集団の適応進化
    門屋俊祐、中込治、中込とよ子、佐野大輔
    第59回日本臨床ウイルス学会
    2018年6月9-10日、大宮ソニックシティ(埼玉県大宮市)
  17. 遊離塩素耐性ロタウイルスの変異遺伝子および耐性メカニズムの解明
    門屋俊祐、浦山俊一、布浦拓郎、北島正章、岡部 聡、佐野大輔
    第54回環境工学研究フォーラム
    2017年11月11~19日、岐阜大学(岐阜県岐阜市)
  18. 遊離塩素耐性ロタウイルスに見出されるアミノ酸変異
    門屋俊祐、浦山俊一、布浦拓郎、北島正章、岡部聡、佐野大輔
    環境ウイルス研究会
    2017年8月28日、東北大学川内北キャンパス(宮城県仙台市)
  19. 遊離塩素耐性に寄与するロタウイルス遺伝的ファクターの同定(ポスター発表)
    門屋俊祐、浦山俊一、布浦拓郎、北島正章、岡部聡、佐野大輔
    第4回環境水質工学シンポジウム
    2017年6月17日、北海道大学(北海道札幌市)
  20. 遊離塩素耐性ロタウイルスの変異遺伝子同定に関する研究
    門屋俊祐、浦山俊一、布浦拓郎、北島正章、岡部聡、佐野大輔
    第51回日本水環境学会年会
    2017年3月14~17日、熊本大学黒髪キャンパス(熊本県熊本市)
  21. ロタウイルスの塩素消毒耐性獲得メカニズムに関する研究(ポスター発表)
    門屋俊祐、北島正章、岡部聡、佐野大輔
    第24回衛生工学シンポジウム
    2016年11月15日、北海道大学(北海道札幌市)